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想いを少しだけ
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こいつ、また時計をちら見してる。
なんなんだよ、と少々いらつくも、
ほれた弱みで気づかないふりをする。

「止まないね、雪」
「もっと降れー」
「帰れなくなるじゃない」
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日がな一日、公園の片隅で釣りを楽しむ。

ここの主達は普段からよほど良いものを食し
ているものと見え、私の提供するえさには
興味を示して頂けないないので、あきらめて
公園を出てJRの駅に向って歩き出すと、
きっと笑顔が素敵だろうと思われる女が微かな
甘い香りを私に絡めながら追い抜いていった。

今宵、楽しいことがあるのだろう。
私にはあるだろうか。
すでに西に陽は落ちかけていた。
遠ざかる彗星のしっぽのように
ピンクのコートは知らぬ間に
見えなくなった。


チョコレートクリーム以外を試して早1年が経とうとしている。
数にして数百種。
どれもそれを超えることができないまま、このプロジェクトは
今月で終わる。

開発室次長野口小百合は分厚いファイルを閉じた。
結論から言うとコルネにはチョコレートクリームしかだめ、
ということだった。
小百合は地上33階の窓から副都心のビルの森を眺めながら
明日からの「脱出」に思いを馳せていた。

金曜。
作っているのはコーヒー牛乳。
1日500パック作る。
結構評判のおいしさで、卸先からは
もっと作ればといわれるが、500でいっぱいだ。
小売価格で350円。
午後3時、工場のラインを止め太郎冶は帰路についた。

太郎冶の住処はたぶん誰も知らない。
半径10km内に人家はたぶんない。
日本郵政株式会社もたぶん知らない。
太郎冶は月曜の朝までこの山小屋風の、
といえば聞こえがいいが半分朽ちたようなこの家にこもる。

そして、月曜。
太郎冶は今日もコーヒー牛乳を作る。
極上のコーヒー牛乳。
一度飲んだら忘れられない味。

 アスファルトを転がる雪を見ていると
 悲しみが込み上げてくるのは
 いつの記憶とリンクしてるからだろうか。

 アパートまでのふたつ目の角の蛍光灯が
 瞬きをしている。にぎやかだった蛾たちは
 どこに消えたか見当たらない。

 角を曲がると小さな公園があり、その並びに
 毎日のように寄っているコンビニがある。
 
 今夜もドアを押していた。
 その中にリンク元があるかもしれない。
 などとは思ってもいないが。
 500mlのコーヒー牛乳とコルネを買った。
 
 雪はやんで星が見えかけていた。